A:近年、ハラスメント(いじめ・嫌がらせ)という言葉を見聞きする機会が増えています。労務問題としての統計上も下記の通り、この5年で一番多いトラブル事項となっており、クリニックの労務管理上重要な課題であり、リスクをかけることになります。
ハラスメントについて確認しておく意義は、「コンプライアンス遵守」、「職場環境維持」、「職員への安全配慮義務」、「法的責任リスク」において重要と考えられます。
(民事上の個別労働紛争相談件数:上位3項目)
25年度 | 26年度 | 27年度 | 28年度 | |
ハラスメント
(いじめ・嫌がらせ) |
59,197 | 62,191 | 66,566 | 70,917 |
(+14.6%) | (+5.1%) | (+7.0%) | (+6.5%) | |
解雇 | 43,956 | 38,966 | 37,787 | 36,760 |
(-14.7%) | (-11.4%) | (-3.0%) | (-2.7%) | |
自己都合
退職 |
33,049 | 34,626 | 37,648 | 40,364 |
(+11.0%) | (-4.8%) | (+8.7%) | (+7.2%) |
※平成29年6月16日 厚生労働省発表
まずは、ハラスメントの定義から説明していきます。
(1)ハラスメントの定義:ハラスメントとは、人の尊厳を傷つけ、精神的・肉体的な苦痛を与える、嫌がらせやいじめのこと
(2)ハラスメントの判断基準:程度の差、人による差があり、ハラスメントをされている側が不快であったり、傷ついたりという状態になった時点で、ハラスメントと見なされるリスクが有る。
(3)ハラスメントの分類:①セクシャルハラスメント、②パワーハラスメント、③マタニティーハラスメント、④モラルハラスメント、⑤ジェンダーハラスメント、⑥スメルハラスメント
上記(3)のハラスメントの代表的な類型について説明していきます。
①セクシャルハラスメント(セクハラ):セクハラとは、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」(男女雇用機会均等法第11条)
※対価型(性的関係の要求を拒否した場合に労働者が不利益を被る場合)
※環境型(就業環境を不快にすることで、労働者の就業に重大な支障が生じる場合)
セクハラに当たる事例
ⅰ.言葉によるもの:性的な冗談やからかい、食事・デートへの執拗な誘い、意図的に性的な噂を流す、性的な体験等を尋ねる
ⅱ.視覚によるもの:ヌードポスターを掲示する、わいせつ図画を配布する、スクリーンセーバーをわいせつ画像にする
ⅲ.行動によるもの:身体への不必要な接触、性的関係の強要
② パワーハラスメント(パワハラ):パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」(平成24年 厚生労働省)
パワハラに当たる事例
ⅰ.具体的なパワハラの形態:「バカ野郎」などと相手を侮辱する言葉を発する、他の人が見ている前で相手を侮辱する、相手を脅すような言葉を発する、相手が怖がるようなことをする、相手を殴ること、肉体関係を迫る、私的な用事をさせる、相手を無視する、報復人事を行う、配転命令に従わない職員に対する報復、解雇のためのパワハラ、遂行不可能なことの強制、嫌がらせ目的での権限行使、能力や経験とかけ離れた程度の仕事を命じること、部下の上司に対する嫌がらせ
③ マタニティハラスメント(マタハラ):マタハラとは、「妊娠・出産・育休などを理由とする、解雇・雇い止め・降格などの不利益な取扱うこと」(平成27年 厚生労働省)
上記にて説明しましたハラスメントが起こった場合の法人・管理職・加害者の責任を問われることがあります。
法人および管理職には職員の雇用管理において以下の責任が有ります。
(1)法人のセクハラ防止義務:「事業主は、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により労働者が不利益を受け、労働者の職場環境が害されることのないよう、必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(男女雇用機会均等法第11条)
(2)対策の措置内容:就業規則等にセクハラを防止する措置を講じていくことを明確に示す。セクハラを相談できる体制を整備する。
(3)使用者責任(民法715条):職員がセクハラ(不法行為)により損害を与えた場合に、使用者である法人・管理職などもその職員とともに損害賠償責任を負う。
また、ハラスメントの加害者には以下の責任を問われることが有ります。
(1)刑事上の責任:強姦罪・強制わいせつ罪・名誉毀損罪・侮辱罪・暴行罪・傷害罪
(2)民事上の責任:不法行為(民法709条)にもとづく損害賠償責任
(3)就業上の処置:就業規則に基づく懲戒処分