A:昨今、国を中心に議論されている 『働き方改革』とは、『一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジであり、日本の法人や暮らし方の文化を変えるもの。』として位置づけられている取組です。
厚生労働省では、女性も男性も、高齢者も若者も、障害や難病のある方も、一人ひとりのニーズにあった、納得のいく働き方を実現するため、『働き方改革』の実現に向けて取組を進めていくとのことです。
国が働き方改革を進めるに当たっては、以下のような社会的問題の解決があります。
(1)非正規雇用問題、(2)長時間労働問題、(3)キャリアパスの問題
(1)非正規雇用問題:正規、非正規の不合理な処遇の差
⇒ 正当な処遇がなされていないという気持ちを「非正規」労働者に起こさせ、頑張ろうという意欲をなくす。
働き方改革を通じて、世の中から「非正規」という言葉を一掃していく:
⇒ 正規と非正規の理由なき格差を埋めていけば、自分の能力を評価されている納得感が醸成。納得感は労働者が働くモチベーションを誘引するインセンティブとして重要、それによって労働生産性が向上していく。
(2)長時間労働問題:健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっています。
長時間労働を自慢するかのような風潮が蔓延・常識化している現状を変えていきます。長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつきます。経営者は、どのように働いてもらうかに関心を高め、単位時間(マンアワー)当たりの労働生産性向上につながります。
(3)キャリアパスの問題:単線型の日本のキャリアパスでは、ライフステージに合った仕事の仕方を選択しにくくなっています。単線型の日本のキャリアパスを変えていくことにより、転職が不利にならない柔軟な労働市場や法人慣行を確立すれば、自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計可能になります。また、付加価値の高い産業への転職・再就職を通じて国全体の生産性の向上にも寄与していきます。
働き方改革の流れの中で、直近でも様々な法改正が既に行われます。
例)(1)育児介護休業法の改正、(2)男女雇用機会均等法の改正、(3)労災保険法(通勤災害)に関する改正、(4)雇用保険法の改正
今後の働き方改革の議論の中で、今後中心となって議論が進められていくのは、以下の点になると考えられています。
(1)長時間労働の是正のための法改正、(2)同一労働・同一賃金
(1)長時間労働の是正のための法改正
法改正の考え方は、現行の限度基準告示を法律に格上げし、罰則による強制力を持たせます。また、従来、上限無く時間外労働が可能となっていた臨時的な特別の事情がある場合として労使が合意した場合であっても、上回ることのできない上限を設定するものです。
時間外労働の上限規制は、週40時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則として、月45時間、かつ、年360時間とします。
特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間とします。
かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限として
① 2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内
② 単月では、休日労働を含んで100時間未満
③ 原則を上回る特例の適用は、年6回を上限
※ 労使が上限値までの協定締結を回避する努力が求められる点で合意したことに鑑み、さらに可能な限り労働時間の延長を短くするため、新たに労働基準法に指針を定める規定を設け、行政官庁は、当該指針に関し、労使等に対し、必要な助言・指導を行えるようにします。
法改正までの準備期間については、中小法人を含め、急激な変化による弊害を避けるため、十分な法施行までの準備時間を確保する方針になります。政府は、法律の施行後5年を経過した後適当な時期において、改正後の労働基準法等の実施状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行います。
(2)同一労働同一賃金について
同一労働同一賃金の方向性を決めるガイドラインは、以下の3つのパートで構成されています。
1.前文(ガイドライン案の目的、趣旨)
2.有期雇用労働者およびパートタイム労働者(基本給、手当、福利厚生など)
3.派遣労働者
前文では、賃金などの待遇については労使で決めるのが基本であることを明言しています。また、同一労働同一賃金が普及している欧州の実態を検証した上で、日本における待遇差の問題を解決するには国ごとに異なる労働市場全体の構造に合わせた政策が重要としています。
また、ガイドライン案の各論では、労働者間の待遇差のうち、典型的な事例を問題となる例、問題とならない例として紹介されています。その他の事例については各法人の労使間で個別の事情を踏まえて議論することになりますが、具体例によって予見性を高めることができれば法人としては取り組みやすくなるでしょう。
同一労働同一賃金の実現に向けたポイントは、日本では、基本給をはじめとする賃金は、さまざまな要素を組み合わせて決定していることが多いです。そのため、日本で同一労働同一賃金を実現するには、各法人において以下のような取り組みが必要になります。
1.正規社員、非正規社員それぞれの賃金決定の基準やルールを明確にする
2.職務や能力などを明確にし、「職務と能力など」と「待遇」との関係を含む処遇体系を労使で話し合い、非正規社員を含めて労使間で共有する
3.賃金のほか、福利厚生や能力開発などの均等・均衡により、生産性の向上を図る
また、均等・均衡待遇を図る上では、待遇差について法人側が説明した際に労働者が納得できるかどうかも重要なポイントです。本ガイドラインは労働者の納得についても触れ、どのような雇用形態でも納得のいく処遇を受けられ、労働者が多様な働き方の中から自由に選べる就労環境を目指すとしています。
基本給・手当などで同一労働同一賃金が求められる概要は以下の内容になります。
- 基本給について、労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の職業経験・能力を蓄積している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。
- 基本給について、労働者の業績・成果に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の業績・成果を出している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、業績・成果に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。
- 基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の勤続年数である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、勤続年数に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。
- 昇給について、勤続による職業能力の向上に応じて行おうとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同様に勤続により職業能力が向上した有期雇用労働者又はパートタイム労働者に、勤続による職業能力の向上に応じた部分につき、同一の昇給を行わなければならない。
- 賞与について、法人の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。
- 勤務時間内に食事時間が挟まれている労働者に対する食費の負担補助として支給する食事手当は有期雇用労働者又はパートタイム労働者にも、無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない。
等々がガイドラインにえ示されており、問題となる例・問題とならない例もあげられています。今後、より具体的な事例などを参考に、各法人にて対応していく必要が出てきます。
今後の同一労働同一賃金についての法整備等の法改正については、労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備を進めており、現行制度では、均等待遇の規定は、有期雇用労働者については規制が有りません。また、派遣労働者については、均等待遇だけでなく、均衡待遇についても規制が有りません。
この状況を改めるため、有期雇用労働者について、均等待遇を求める法改正を行います。また、派遣労働者について、均等待遇及び均衡待遇を求める法改正を行います。さらに、パートタイム労働者も含めて、均衡待遇の規定について、明確化を図ります。
また、労働者に対する待遇に関する説明の義務化が求められ、不合理な待遇差の是正を求める労働者が、最終的には、実際に裁判で争えるような実効性ある法制度となっているか否かが重要となります。
現行制度では、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者のいずれに対しても、比較対象となる正規雇用労働者との待遇差に関する説明義務が事業者に課されていません。
また、有期契約労働者については、待遇に関する説明義務自体も事業者に課されていません。
今般の法改正においては、事業者は、有期雇用労働者についても、雇入れ時に、労働者に適用される待遇の内容等の本人に対する説明義務を課す方向性です。
また、雇入れ後に、事業者は、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者の求めに応じ、比較対象となる労働者との待遇差の理由等についての説明義務を課する方向で進んでいます。
法改正の施行に当たっては、中小法人を含め、本制度改正は法人活動に与える影響が大きいため、周知を徹底し、十分な法施行までの準備期間を確保していきます。相談窓口の整備等、中小法人等の実情も踏まえ労使双方に丁寧に対応していく方針とのことです。