実際の業務に従事している時間以外の、移動時間や着替えの時間などはどこまでが労働時間になるのか?

(1)移動時間についての労働時間の考え方

  •  特定の現場、客先への直行直帰の時間

労働時間とは、『使用者(事業所)の支配下にある時間』かどうかで判断します。直行や直帰の際も、支配下にある時間かどうかで判断することになります。

直行及び直帰は、言い替えると「通常と異なる勤務場所と住居の往復」ということになります。直行や直帰に際し、住居を出発して寄り道しながら直行しても、顧客との約束時間に到着すれば良いし、顧客との面談終了後の直帰もそのまま帰らずに遊びに行っても良いわけです。即ち、直行のときは訪問先に到着する前の時間、直帰のときは訪問先で業務が終了した時間の後の時間は、通勤時間であり、労働時間に該当しないことになります。

ここで出てきた通勤時間とは、本人の住居と勤務場所の往復の時間をいい、通勤途中の本人の行為に対して干渉することはできません。従って、事業所の支配下にないので、労働時間にならないわけです。

  •  法人から特定の現場・客先への移動時間

上記①とは異なり、法人に出社後、必要に応じて行う移動時間については、「使用者(事業所)の支配下にある時間」と判断され、労働時間となります。

 

③ 出張の移動時間

出張の際の往復の旅行時間が労働時間に該当するかどうかについては,通勤時間と同じ性質のものであって労働時間でないとする説と,移動は出張に必然的に伴うものであるから,使用者の拘束のもとにある時間とみて,労働時間であるとする説,使用者の拘束のもとにあるが,特に具体的な業務に従事することを命じられているわけでないから,労働時間とはいえないとする説などがあります。

この点,裁判例には,「出張の際の往復に要する時間は,労働者が日常出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから,右所要時間は労働時間に算入されず,したがってまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である」とするものがあります(日本工業検査事件・横浜地判川崎支判昭和49年1月26日)。

このように説は分かれているのですが,移動時間中に,特に具体的な業務を命じられておらず,労働者が自由に活動できる状態にあれば,労働時間とはならないと解するのが相当といえます。

ただし,出張の目的が物品の運搬自体であるとか,物品の監視等について特別の指示がなされているとか,特別な病人の監視看護に当たるといった場合には,使用者の指揮監督下で労働しているといえますので,労働時間に含まれると考えるべきでしょう。

 

(2)着替えなどの時間

着替えの時間は、例えば、防護服・保護具などの、着用が義務的でしかもそれ自体入念な作業を要する場合を除いては業務従事の準備にすぎないといえよう。と考えらえています。

過去の判例でも別の解釈が出来るものが有りますが、一般的な事務服や制服といわれるものへの着替えの時間は、着替えが作業開始に不可欠であるとしても、それ自体は労働の提供ではないし、使用者の直接の支配下にあるわけではないので、労働時間に含めるか否かは職場の慣行に従うのが妥当とされています。

上記のことから、「就業規則」にタイムカード打刻のルールを定め、その運用が適切に行われていることが重要になってきます。

就業規則への規定例は、

(出退勤の記録)

第〇条 1.職員は、出退勤に際しタイムカードに出退勤の記録をしなければならない。

2.前項の記録は、特に認める場合のほか、他人に依頼したり、または依頼に応じたりしてはならない。

3.第1項の記録は、業務の開始出来る状態で出勤の記録をし、業務が完了次第、速やかに退勤の記録を行うこととする。

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