医療経営を脅かす『未払残業代請求』の実例

昨今のインターネットでの情報普及や、職員の権利意識の高まりなどを通じ、労使間でのトラブルが増えてきています。その労使トラブルの一つが、『未払残業代請求』があげられます。今回はその実例を紹介し、次回は未払残業代を防止するための対策について説明していきたいと考えております。

『未払残業代請求』について、病院・クリニックを経営されている理事長・院長の防止意識は低い傾向にあります。理由としては、経営者には『残業』という言葉は無く、勤務医時代も残業を意識して働いてこなかった先生が多い点と、もう一つ重要なのが、『未払残業代請求』は、報道での下記事例のように労基署の臨検により発覚するか、職員が在職中には起こらず、退職時に過去2年間に遡って請求されるため、問題が顕在化していないという点にあります。

 

実例として、下記に実例として三医療機関において未払残業代が大きく取り上げらております。

2016/11/25付報道:群馬県立心臓血管センター

残業代の未払いがあり労働基準法違反に当たるとして、前橋労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかった。患者の電子カルテが夜間に更新されていたのに、職員が更新した時間帯の残業を申告していなかったことが労基署の調査で判明、未払いが発覚したという。センターによると、勧告は8月26日付。センターは管理職を除く正規職員約300人について4~8月の残業時間を調べ直し、不足分を今月21日に支払ったとしている。

 

2016/5/30付報道:藤沢市民病院

神奈川県藤沢市の藤沢市民病院で、医師と看護師、400人あまりの残業代、およそ1億3000万円が未払いだったことが分かり、藤沢市では補正予算を編成して、残業代を支払うことにしています。病院では、時間外勤務の申請は、医師や看護師が、管理職の許可を得た上で専用の書類に手書きで記入していますが、去年11月、労働基準監督署が調べたところ、電子カルテにアクセスするなど仕事をしていたと見られる時間帯と、勤務記録が合わないケースが相次いで見つかったということです。

このため病院が、過去2年間について詳しく調べたところ、421人分、あわせておよそ1億3000万円の未払いが判明したということです。

 

2015/1/8付報道:熊本赤十字病院

熊本赤十字病院(熊本市東区長嶺南)が、職員に適正な残業代を支払っていなかったとして、熊本労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが、わかった。勧告は昨年4月21日付。同病院は全職員の半数にあたる約700人に残業代の未払い分を支給したが、未払い分の総額は明らかにしていない。

同病院によると、昨年4月に労基署が労務状況を調査した際、事務職や看護職を中心とした職員について、支払われた残業代と実際に病院にいた時間に食い違いが発覚した。不払いがあったとして勧告を受けた期間は2012年4月~14年3月の2年間。同病院は未払い額を調べたうえで昨年12月、1人あたり数千~約100万円の未払い分を一括支給し、同労基署に是正報告書を提出した。

 

 

上記の事例とは別に、個別の紛争として、クリニックに内容証明が届き、過去2年分の未払残業代の請求が来る事例もあります。

事例)婦人科クリニック

職員が3名(看護師2名、事務1名)同時に退職し、退職後にそれぞれ未払残業代請求が届き、1名当たり平均120万円の請求となっていました。当クリニックは患者数も多く、診療時間内で診療が終わらず、残業が当たり前の状況にありました。

未払残業代請求が起こされた原因は下記の点があげられます。

①雇用契約において、『基本給』に20時間分の残業代を含む、と説明していたこと。

②20時間以上の残業が毎月続いていたが、超えた分の残業代を一切払っていなかったこと。

③就業時間管理は、タイムカードのみで行っており、出退勤時間は明確に判断できたこと。

 

みなし残業の20時間分が『基本給』に含まれているため、みなし残業が認められず、『基本給』+『諸手当』で、残業代単価が計算され、残業時間も最初の1分からカウントされたことが、今回大きな金額での請求となりました。

その後の交渉(弁護士)により、請求金額を少し抑えての和解となりましたが、クリニックにとっては厳しい結果となりました。

 

今回の事例の通り、未払残業代が経営に及ぼす影響も踏まえ、適切な対策・管理をすることで予防することができます。次回は、『未払残業代』対策についてご説明致します。

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